Phantom Blade Zero のアートディレクションを読み解く — 手作業の制作方針とカメラワークの設計思想
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注意: Phantom Blade Zero は2026年10月29日発売予定の未発売タイトルです(PS5環境では10月28日)。本記事は開発元S-GAMEの公式発言と、Digital Foundryなどによる実機分析記事をもとにした発売前時点の内容です。実機での最終的な見え方は製品版で更新予定です。
Phantom Blade Zero は「カンフーパンク(Kungfupunk)」という独自のビジュアルコンセプトを掲げていますが、この言葉が世界観の輪郭を示す一方で、それを実際の画面にどう定着させているかは別の話です。「カンフーパンク」を生んだ会社では S-GAME というスタジオの成り立ちとコンセプトの由来を扱いました。本記事はそこから一歩踏み込み、制作の手法とレンダリングの選択、そしてカメラワークの設計方針という、絵作りそのものを支える3つの軸を、公式発言と技術分析記事だけで整理します。
「AIを使わない」という宣言 — 手作業の制作パイプライン
2026年4月10日、S-GAME公式は自社のX(旧Twitter)アカウントで長文の声明を発表しました。GamingBoltの報道によれば、その核心はこの一文です。
"every single piece of content in our game has been crafted by the hands of real artists" (このゲームのすべてのコンテンツは、実在するアーティストの手によって作られている)
さらに続けて「アーティストの創意を損なうようなAIビジュアル技術は使用しない」("We will not use AI visual tech that could alter our artists' original creative intent")とも明言しています。この声明が具体的に挙げている制作手法は次の3点です。
- キャラクターモデル: 実在のキャストの3Dスキャンとフェイシャルキャプチャーをもとに構築
- マップ: 中央美術学院の学生が、伝統的な筆と宣紙を使って手描きで制作
- 武器プロトタイプ: 伝統的な中国武器や実物の刀剣レプリカを参考に設計
ドニー・イェンの関与範囲を扱った記事で触れた通り、動作面では20名超のカンフーマスターを起用したモーションキャプチャーが軸になっています。今回の声明はその延長線上で、動きだけでなく見た目そのものについても「実写・実物からの再現」を制作原則に据えていることを示しています。生成AIによる大量生産が業界全体で議論の的になっている時期に、あえてこの立場を公式声明として出した点は、絵作りに対するスタジオの姿勢を読み取る材料になります。
Phantom Blade Zero 公式スクリーンショット(プレスキット)
レンダリング設計 — Unreal Engine 5でLumenをあえて使わない選択
本作はUnreal Engine 5製ですが、Digital Foundryが2025年のGamescomハンズオンで行った実機分析(Tech4Gamers、2025年9月11日)によると、UE5の目玉機能である動的グローバルイルミネーション「Lumen」と「Virtual Shadow Maps」は使用されていません。かわりに採用されているのは、照明条件をあらかじめ計算して焼き込むベイクドライティングです。レイトレーシングは限定的に使われており、その適用範囲は水たまりや水面の反射・影に絞られていたと報告されています。壁や地面といった計算負荷の高い素材面には適用されていません。
この分析はあくまで発売より1年以上前のプレビュービルドに基づくものである点には注意が必要です。実際、2026年8月14日付のTweakTownの報道では、NVIDIA公式発表をもとに、PC版が発売初日から「反射・影・コースティクスのレイトレース処理」("ray-traced reflections, shadows, and caustics")とDLSS 4.5に対応すると伝えられており、Gamescom版で確認された「水面のみ」という限定的な適用範囲から、対応領域が広がっている可能性があります。いずれにせよ、リアルタイムの動的GIに頼るのではなく、ベイクドライティングを軸にレイトレーシングを効果的な場面に絞って足す、という設計思想自体は一貫しています。これはパフォーマンスへの配慮であると同時に、アーティストがシーンごとの光をあらかじめ緻密にコントロールできるという意味も持ちます。
カメラワーク — 「操作可能なカンフー映画」を作る設計
Viceのインタビュー(2025年2月24日)で、S-GAME CEOのSoulframe(梁其偉)は、戦闘のフィニッシュ時にカメラが動的に切り替わる仕組みについてこう説明しています。
"executing sudden cinematic finishers that dynamically shift the camera to wide or close-up angles" (突然のシネマティックなフィニッシャーを実行すると、カメラが動的にワイドショットやクローズアップへと切り替わる)
同インタビューでは、この演出を支える素材づくりについても語られています。
"We conduct large-scale scans of real-world objects. Which include everything from massive temple structures and small village homes to individual weapons and props. By carefully combining these high-resolution assets with unique artistic direction and meticulous lighting, we can create an incredibly convincing and immersive visual experience." (実世界のオブジェクトを大規模にスキャンしている。巨大な寺院建築から小さな民家、個々の武器や小道具まで対象は幅広い。これらの高解像度アセットを、独自のアートディレクションと緻密なライティングと丁寧に組み合わせることで、非常に説得力のある没入型のビジュアル体験を作り出せる)
「実写スキャンした高解像度アセット」+「アートディレクション」+「緻密なライティング」という3点セットは、前段で見たベイクドライティング中心の設計とも符合します。リアルタイムの物理演算に頼らず、あらかじめ作り込んだ素材と光を組み合わせて説得力を出す、という一貫した方針が浮かび上がります。
State of Play Gameplay Deep Dive | PS5 Games(PlayStation 公式チャンネル)。フィニッシュ時のカメラ切り替えが確認できる映像です。
香港アクション映画への回帰という原点
Ensigame(2025年3月26日)が伝えるところでは、Soulframe Liangはこのビジュアル・演出コンセプトの原点を1970年代の香港アクション映画に置いています。ブルース・リー、ジャッキー・チェン、ジェット・リー、ドニー・イェンらが築いたスタイルについて、開発チームは「2000年代初頭にほぼ姿を消してしまった」("this unique style virtually disappeared in the early 2000s")独自の様式だとみなし、それを現代のプレイヤー向けに復活させることを目標に掲げています。
同記事では、比較対象としてフランスのSloclapが手がけた『Sifu』にも言及されています。「ヨーロッパのスタジオがこのジャンルで質の高い作品を作れたのなら、自らの文化的遺産を持つ中国の開発者はより深い説得力を実現できるはずだ」というのがLiangの論理です。さらに、Sifuの代名詞とも言える「死の廊下」の一本道乱闘シーンに相当する、本作独自の解釈を持つ戦闘シークエンスも用意されているとされています。狭い通路を舞台に次々と敵をさばいていく画作りは、武器・戦闘スタイル徹底考察で扱った「武器スイッチでコンボが途切れない」設計とも相性がよく、カメラが追いやすい直線的な立ち回りをアクション演出の見せ場に変える発想と読めます。
戦闘振り付けの文化的裏付けという点では、CGMagazine(2026年4月15日)が伝える龍舞スタジオでのモーションキャプチャー収録も同じ文脈にあります。ボス戦の一部は実在の龍舞パフォーマーの動きを収録して構築されており、酔拳スタイルの敵についてもLiangは「敵はエネルギーを蓄積するために飲み続け、酔うとその動きは著しく不規則になり、攻撃もまた同様になる」と説明しています。振り付けの出どころを実在の身体表現に求める姿勢は、AIを使わない制作方針、実写スキャン素材、香港映画への回帰という3つの軸すべてに通底しています。
まとめ
Phantom Blade Zero の絵作りは、「カンフーパンク」という言葉だけで完結しているわけではありません。実在のアーティストとカンフーマスターによる手作業、Unreal Engine 5の目玉機能をあえて避けてベイクドライティングを軸に据えるレンダリング設計、そして武侠映画のようなカメラの切り替えという、具体的な制作判断の積み重ねがその言葉を支えています。発売まで残り2ヶ月弱、ここで整理した設計方針が実機でどこまで体感できるかは、10月29日の発売後にあらためて検証が必要です。
情報ソース
- https://tech4gamers.com/phantom-blade-zero-ue5-performance/(media) — 2026.09.02 取得
- https://www.vice.com/en/article/soulframe-ceo-of-s-game-and-the-creator-of-phantom-blade-zero-details-how-it-differs-from-any-other-action-game-on-the-market-exclusive-interview/(media) — 2026.09.02 取得
- https://ensigame.com/news/gaming/inspiration-and-philosophy-behind-phantom-blade-zero(media) — 2026.09.02 取得
- https://gamingbolt.com/phantom-blade-zero-studio-says-every-single-piece-of-content-is-hand-crafted-by-real-artists/amp(media) — 2026.09.02 取得
- https://www.cgmagonline.com/news/phantom-blade-zeros-inspiration/(media) — 2026.09.02 取得
- https://www.tweaktown.com/news/113117/phantom-blade-zero-on-pc-will-launch-with-dlss-4-5-and-ray-tracing-on-day-one/index.html(media) — 2026.09.02 取得
